一筆☆啓上

観た映画、読んだ小説の印象を綴ります

2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

映画「清作の妻」(1965)

本作を監督した増村保造に対し、私は「愛とエロス」を撮るフィルムメーカーという勝手なイメージを抱いていたのだが、その思い込みを見事に覆される重厚にして深遠な人間ドラマだった。でもよく考えてみれば、この映画の根底にあるのはひとりの女のエゴイス…

映画「ロング・グッドバイ」(1973)

今回、あらかじめレイモンド・チャンドラーの原作(村上春樹訳)を再読したうえで映画を鑑賞した 私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とする一連のシリーズのなかでも、「ロング・グッドバイ」はハードボイルド小説を「文学」の域にまで高めたとも言える金…

映画「仁義」(1970)

原題の"Le cercle rouge"は異なる人生背景を持つ者同士が「紅い輪」の中で必然的に出会うという、ブッダの言葉に由来する。メルヴィルの書いた脚本は当然ながらこのタイトルに則っており、劇中で主人公がビリヤードキューの先端を拭いた際に紅い円が強調され…

映画「バウンド」(1996)

この「バウンド」はウォシャウスキー姉妹がまだ兄弟だった時に製作されたもので*1、「暗殺者」*2の脚本で注目を集めたふたりが初めてメガホンを取った映画になる。たしか劇場公開時かなり話題に上っていて、私もビデオを借りた記憶はあるのだが、内容は全く…

「柔らかな頬」 桐野夏生 著

ジェイムズ・クラムリー作「酔いどれの誇り」などに登場する私立探偵ミロドラコヴィッチ三世の名前に因む主人公・村野ミロの活躍を描いたハードボイルド「顔に降りかかる雨」が初めて読んだ桐野夏生の小説だった。かれこれ30年程前のことだ。以来、彼女は…

映画「イタリア旅行」(1954)

本作を評しゴダールは「男と女と一台の車とカメラがあれば映画が出来る」 と語ったそうだ。従って、もしロッセリーニがこの「イタリア旅行」を撮っていなければ、ゴダールの「勝手にしやがれ」は作られていなかったかもしれず、またもし「勝手にしやがれ」が…

映画「クルーシブル」(1996)

数々の秀作を監督したエリア・カザンがアカデミー賞の式典で名誉賞を贈られた際、俳優のリチャード・ドレイファスやエド・ハリスがそれに反対する姿勢を見せたのは記憶に新しい。かつてカザンは、ハリウッドを含めてアメリカ中を席巻した「赤狩り」において…

映画「ドラゴン・タトゥーの女」(2011)

話題になっていたスティーグ・ラーソンの原作は文庫化されたときに目を通した。調査員リスベット・サランデルのキャラは大変魅力的に感じたが、頁が進むにつれて明らかになる真相には気が滅入るばかりで読後感は最悪だった覚えがある それを映画化した本作に…

映画「タクシードライバー」(1976)

デ・ニーロもアル・パチーノも歳を取るほどに演技が過剰になるのを見るにつけ、やっぱり彼らが一番輝いていたのは70年代だったよなぁ、と何気に思う今日このごろ。振り返ってみればデ・ニーロは「アンタッチャブル」パチーノは「スカーフェイス」、このデ…

映画「リトル・チルドレン」(2006)

原題をそのままカタカナ読みにしたタイトルの直訳は「幼児」となるが、本作の内容からすると、そこには「ピーターパン症候群」「アダルト・チルドレン」と同様に、大人になりきれぬ大人のニュアンスが含まれているのだろう ストーリーは、生活にゆとりのある…

映画「地獄の黙示録 特別完全版」(2001)

「地獄の黙示録」オリジナル版が劇場公開された当時中学生だった私は、映画マニアやミリタリーマニアの級友らがを本作を象徴するヘリコプターでの襲撃シーンの凄さを口角泡を飛ばしながら語っていた姿をよく覚えている ヒロイックなワーグナーの音楽をバック…

映画「雨のしのび逢い」(1960)

周りのことなどお構いなくスマホの画面を一心不乱に見つめる人々の目には、道端に咲く花の可憐さも夜空に浮かぶ月の輝きも映るはずはなく、いずれは「情緒」という言葉も死語になる日が来るのではないか。最近はふと、そんなことを考える 本作はまさにその「…

「湖の女たち」 吉田修一 著

特に吉田修一のファンというわけではないのだが、たまたま目に留まった本書の紹介記事に関心を抱き、文庫の発売日に書店で買い求めた 琵琶湖の畔に建つ高齢者医療施設で寝たきりの老人が不慮の死を遂げた。事故か殺人か、警察は決定的な証拠を掴めず捜査は難…