一筆☆啓上

観た映画、読んだ小説の印象を綴ります

映画「あ」行

映画「aftersun/アフターサン」(2022)

台詞に頼り過ぎず、流れのなかで観客のイメージを喚起するように企図された映画脚本こそが理想と考える私にとって、この「アフターサン」はかなり好みに近いカタチと言える 思春期を迎えた娘ソフィとその父親カラムのひと夏のふれあいを描いたストーリーは主…

映画「暗殺の森」(1970)

ベルトルッチの名声を一躍高め、映画史上に残るマスターピースとして評価される作品だが、中身の濃いモラヴィアの小説に較べると、内容は随分と物足らなく感じる。登場人物の掘り下げ方が浅く、全くもって空虚で薄っぺらいのだ。構図、陰影、色彩にこだわっ…

映画「赤い天使」(1966)

数ヶ月前に観た「清作の妻」は、私が監督・増村保造に抱いていたイメージをいい意味で覆す傑作だった。そして今回鑑賞したこの「赤い天使」の内容もまた、それと肩を並べる重厚さであり、彼の類まれな演出力に対してはただ感嘆する以外になかった 日中戦争最…

映画「女の中にいる他人」(1966)

長谷川和彦がメガホンを取った「青春の殺人者」*1において、父親を刺殺し自首しようとする息子に対して母親が「これは我が家の問題で国や法律は関係ない」と出頭を引き留める場面は、市原悦子の鬼気迫る演技と相まって、鮮烈な記憶として私の脳裏に焼き付い…

映画「アンモナイトの目覚め」(2020)

これはあくまでも私の主観だが、同性愛を描いた映画には名作・佳作が多い気がする 人気と実力を兼ね備えたケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナン、このふたりを配した本作もまた、決して派手さはないが、まだ公に同性愛が認められていなかった時代の…

映画「アンナと過ごした4日間」(2008)

タイトルだけ見ると(邦題は原題の直訳)、お涙頂戴の感傷的なラヴストーリーをイメージしそうだが、実際の内容は、確かに切ない話には違いないのだけども、一風変わった恋物語である 病院の依頼で遺体焼却を請け負うオクラサは、体の弱った祖母とふたりきり…

映画「イタリア旅行」(1954)

本作を評しゴダールは「男と女と一台の車とカメラがあれば映画が出来る」 と語ったそうだ。従って、もしロッセリーニがこの「イタリア旅行」を撮っていなければ、ゴダールの「勝手にしやがれ」は作られていなかったかもしれず、またもし「勝手にしやがれ」が…

映画「雨のしのび逢い」(1960)

周りのことなどお構いなくスマホの画面を一心不乱に見つめる人々の目には、道端に咲く花の可憐さも夜空に浮かぶ月の輝きも映るはずはなく、いずれは「情緒」という言葉も死語になる日が来るのではないか。最近はふと、そんなことを考える 本作はまさにその「…