一筆☆啓上

観た映画、読んだ小説の印象を綴ります

小説(日本)

「春の雪」三島由紀夫 著

文学だろうと大衆向けの作品だろうと、物語というものはやはり面白くなくてはならない。小説に限らず、映画の世界などでも、一般に難解=質が高いと思われがちだが、如何にして物を語るかという見地に立てば、読み手側の頁を繰る手が止まらなくなるほど面白…

「神よ憐れみたまえ」小池真理子 著

いち読者として、作家・小池真理子との付き合いもいつの間にやら長くなった。今から三十数年前、彼女の書いたエッセイを知人に薦められて書店へと出向いた私が棚から選んでレジへ差し出したのは、魅惑的なタイトル(「知的悪女のすすめ」)が付された随筆と…

「日没」桐野夏生 著

岩波で桐野夏生の作品に触れるというのも何か格別な思いだ。それは例えるなら、大衆に人気のある崎陽軒のシウマイ弁当を横浜中華街の老舗・聘珍楼(現在は閉店)で食す感覚に近いかもしれない エンタメ系小説を書く作家・マッツ夢井のもとへ文化文芸倫理向上…

「血も涙もある」山田詠美 著

私の趣味は人の夫を寝盗ることです。などと、世界の真ん中で叫んでみたいものだ。たぶん四方八方から石が飛んで来るだろうけど。そして、この性悪女!なあんて、ののしられたりする。不倫の発覚時には、何故かこういう古めかしい罵倒語が復活するから驚きだ…

「柔らかな頬」 桐野夏生 著

ジェイムズ・クラムリー作「酔いどれの誇り」などに登場する私立探偵ミロドラコヴィッチ三世の名前に因む主人公・村野ミロの活躍を描いたハードボイルド「顔に降りかかる雨」が初めて読んだ桐野夏生の小説だった。かれこれ30年程前のことだ。以来、彼女は…

「湖の女たち」 吉田修一 著

特に吉田修一のファンというわけではないのだが、たまたま目に留まった本書の紹介記事に関心を抱き、文庫の発売日に書店で買い求めた 琵琶湖の畔に建つ高齢者医療施設で寝たきりの老人が不慮の死を遂げた。事故か殺人か、警察は決定的な証拠を掴めず捜査は難…