一筆☆啓上

観た映画、読んだ小説の印象を綴ります

2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

「チャタレー夫人の恋人」ロレンス 著

D・H・ロレンスの書いた原書も、伊藤整の手掛けた翻訳書も、いずれも性愛に関する表現をめぐって「芸術か猥褻か」で論争の的になったと聞くが、実際本作に目を通してみれば、それは純然たる文学以外の何物でもなく、猥褻さは微塵も感じられなかった 新婚早…

映画「左利きの女」(1977)

ヒロインの家には小津(安二郎)を写したポスターが飾られ、シングルマザーの彼女が小学生の息子と映画館で観るのもまた小津のモノクロフィルム。従って、恐らくこの作品自体が小津の強い影響下にあるものと思われるが、私自身は彼の映画を、何となく自分の…

映画「クラッシュ」(1996)

クルマの運転とセックスの関連性についてはしばしば取り沙汰されるが、様々なテクニックを用いて相手と一体になり、気持ちの昂ぶりによってエクスタシーを得るところなどは確かに共通しているのかもしれない 本作の内容もまたクルマの運転とセックス、双方の…

映画「アンモナイトの目覚め」(2020)

これはあくまでも私の主観だが、同性愛を描いた映画には名作・佳作が多い気がする 人気と実力を兼ね備えたケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナン、このふたりを配した本作もまた、決して派手さはないが、まだ公に同性愛が認められていなかった時代の…

映画「鉄輪」(1972)

自分を捨て後妻を娶った元夫への嫉妬と恨みから鬼と化す女を描いた能の演目「鉄輪(かなわ)」を原案に、平安時代と現代とが巧みに交錯するストーリーは、男女の性愛シーンがふんだんに盛り込まれ、まるで前衛的ポルノグラフィのような趣を感じさせる 中年男…

「血も涙もある」山田詠美 著

私の趣味は人の夫を寝盗ることです。などと、世界の真ん中で叫んでみたいものだ。たぶん四方八方から石が飛んで来るだろうけど。そして、この性悪女!なあんて、ののしられたりする。不倫の発覚時には、何故かこういう古めかしい罵倒語が復活するから驚きだ…

映画「アンナと過ごした4日間」(2008)

タイトルだけ見ると(邦題は原題の直訳)、お涙頂戴の感傷的なラヴストーリーをイメージしそうだが、実際の内容は、確かに切ない話には違いないのだけども、一風変わった恋物語である 病院の依頼で遺体焼却を請け負うオクラサは、体の弱った祖母とふたりきり…

「ボヴァリー夫人」フローベール 著

配偶者や恋人以外の男女に心が傾くことを浮気と呼ぶのは実に言い得て妙だ。足が地につかず、まさに気持ちがフワフワと浮き立つ如きその感覚は、恥ずかしながら私自身にも経験がある。先日読んだ桐野夏生著「柔らかな頬」のなかで、不倫相手と密会する主人公…