一筆☆啓上

観た映画、読んだ小説の印象を綴ります

映画「アンモナイトの目覚め」(2020)

これはあくまでも私の主観だが、同性愛を描いた映画には名作・佳作が多い気がする

 

人気と実力を兼ね備えたケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナン、このふたりを配した本作もまた、決して派手さはないが、まだ公に同性愛が認められていなかった時代の秘めた想いを静謐さのなかに映し出した大変趣のある作品だ

 

19世紀イギリス。化石の採掘を生業として支配的な母親と質素に暮らすメアリー。自分本位な夫との間に宿った小さな命が流れ、その影響で精神が不安定になったシャーロット。彼女たちの偶然の出会いはやがて恋愛感情へと発展し、それぞれの心を解放していく

 

倫ならぬ恋を主題とする場合、直接言葉では胸のうちを表せない分、顔つきや視線で訴えかける必要があり、俳優の力量がより問われるのではないかと思うのだが、ここでは若いシャーロットに段々と惹かれていくメアリーに扮したウィンスレットが素晴らしい演技を見せている。お互いを求める気持ちが沸点に達した時のラヴシーンはかくも激しく、美しい

 

ハリウッド製のようにご都合主義で大団円に終わらないラストも好感が持てる。まるで化石みたいに閉ざされた心の扉がいつしか開かれていくという意味合いにおいて、「アンモナイトの目覚め」の邦題はなかなかセンスがいい

 

私は一般映画での無意味な裸体へのボカシは不要だと考えるが、本作中でシャーロットの夫が彼女の前で服を脱ぐところにおける股間へのボカシは誠に興ざめだった。あの場面はシャーロットが夫を、そしてまた男性自体を嫌悪していることを暗示させるもので猥褻さとは全く無関係だっただけに、監督と作品へのある種の冒涜にも感じられた

 
  • ”Ammonite" 117分 (英・豪・米合作)
  • 監督:フランシス・リー
  • 脚本:フランシス・リー
  • 撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ
  • 出演:ケイト・ウィンスレット、シアーシャ・ローナン、ジェマ・ジョーンズ

(2021年11月に他サイトへ投稿した記事を部分的に加筆修正し再掲)