一筆☆啓上

観た映画、読んだ小説の印象を綴ります

映画「ロング・グッドバイ」(1973)

今回、あらかじめレイモンド・チャンドラーの原作(村上春樹訳)を再読したうえで映画を鑑賞した
 
私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とする一連のシリーズのなかでも、「ロング・グッドバイ」はハードボイルド小説を「文学」の域にまで高めたとも言える金字塔的な作品である。文庫本で約600ページに及ぶ内容をそのまま映像化するのが無理なことは百も承知しているが、それにしたってあまりに脚色がひどすぎないか。よくもここまで陳腐なストーリーに改変したものだと呆れ果てる
 
この「ロング・グッドバイ」を象徴する登場人物がテリー・レノックスだ。マーロウはまだ付き合いも浅いレノックスを直感的に信用し、散々な目に遭いながらも友情を貫き通す。これこそが物語の肝でありベースラインとなる部分のはずだが、映画ではふたりの関係性が表面的にしか描かれていないため、全く共感が出来ず、最後まで延々と詰まらないイザコザを見せられたような印象しか残らない
 
作者のチャンドラー及び原作へのリスペクトが希薄な本作はありとあらゆる箇所をいじくり回し、実に空虚なパルプフィクションに仕立ててしまった。特にラストシーンに至っては思わず言葉を失う。製作に携わった者たちは「ロング・グッドバイ」のタイトルにこめられた意味を果たして理解していたのか甚だ疑問に感じる
 
主演のエリオット・グールドに関しては、外見を含めて、チャンドラーの文章からイメージするマーロウの雰囲気によく合っていた。一匹狼の彼が猫を飼っているなど、より現代風のマーロウ像を作ろうとした姿勢を評価はするが、いかんせん展開が雑過ぎた
 
シニカルなマーロウなら、恐らく映画の感想をこう述べるのではなかろうか
 
とびきり上等の食材を用いてはみたものの、シェフがそれらを上手く活かしきれず、単に自己満足だけで作ったとんでもなく不味い料理を口にした、まるでそんな気分だった
 
  • "The Long Goodbye" 112分 (米)
  • 監督:ロバート・アルトマン
  • 脚本:リー・ブラケット
  • 撮影:ヴィルモス・ジグモンド
  • 出演:エリオット・グールド、スターリング・ヘイドン、マーク・ライデル
 
(2022年4月に他サイトへ投稿した記事を部分的に加筆修正し再掲)