一筆☆啓上

観た映画、読んだ小説の印象を綴ります

映画「離婚しない女」(1986)

にっかつロマンポルノで名を馳せた神代辰巳がメジャー系(松竹)で撮った一般映画。ひとりの男が同時にふたりの人妻を愛するという題材に惹かれて鑑賞したものの、登場人物の背景がボンヤリしているため具体性に欠け、期待外れの凡庸な仕上がりで終わった

映像でストーリーを表現するうえで、一から十まで細かに状況を語るのは不可能であるし、その必要もない。ポイントとなるのは如何にして描かない(描かれない)部分のイマジネーションを観客に喚起させるか、だと私は考える。しかし、本作のキャラクターたちからはどう想像力を働かせてもそのバックグラウンドが感じ取れず、小説で言うところの「行間を読む」ことが出来ない。尺が大体80分弱ほどで男女の絡みを中心とするポルノグラフィならばあるいはそうしたファジーさもひとつの「個性」と評価されようが、一般作品においては監督の単なる「独りよがり」に他ならないだろう

特に主人公・啓一の人物像がミステリアスを通り越して不鮮明で、それが影響して中年男女の複雑な関係が子供同士の喧嘩にしか見えないのは致命的だ。また、この男に扮した萩原健一の雰囲気だけに頼った勿体ぶりの演技もやたらと鼻に付く

恋愛に積極果敢な女に倍賞千恵子、一方の臆病な女に倍賞美津子を配したキャストは、世間が彼女らに抱く固定観念を覆す意図によると思われるが、ふたりともまるで慣れないポジションを守らされた野球選手みたいな様子が覗いてしまい、違和感は否めず。こうした乏しい中身を補うとするかの如く挿入されるマーラーの交響曲第五番アダージェットがただ虚しく響くばかりだった

  • "Women Who Do Not Divorce" 107分 (日)
  • 監督:神代辰巳
  • 脚本:高田純、神代辰巳
  • 撮影:山崎善弘
  • 出演:萩原健一、倍賞千恵子、倍賞美津子、夏八木勲

(2023-67)