一筆☆啓上

観た映画、読んだ小説の印象を綴ります

映画「ドラゴン・タトゥーの女」(2011)

話題になっていたスティーグ・ラーソンの原作は文庫化されたときに目を通した。調査員リスベット・サランデルのキャラは大変魅力的に感じたが、頁が進むにつれて明らかになる真相には気が滅入るばかりで読後感は最悪だった覚えがある

それを映画化した本作に関しては、小説の雰囲気を大事にしながらハリウッド流の派手さは抑えめにして手堅く仕上げたという印象を持った。鑑賞前は007のイメージが強いダニエル・クレイグの主人公役には少なからず疑問を抱いていたものの、冒頭の数分間ですっかりその懸念は払拭された。画面に映された男は屈強で怖いもの知らずのタフなスパイではなく、いかにもごく普通のジャーナリストに見えた

ドラゴン・タトゥーの女」が単なるミステリー小説の枠を超えて大きな成功を収めた要因のひとつにリスベット・サランデルのユニークな人物造形が挙げられる。従って、その彼女を誰がどう演じるかは非常に重要な鍵を握っていたであろうことは容易に想像がつく。ルーニー・マーラはこの複雑な人格を持った女性を見事に自分のものとした

少し残念な気がしたのは、ナチス信仰や反ユダヤ主義旧約聖書レビ記などが絡んだ凄惨な事件の全体像がいくらかボヤけてしまった点だろうか。物語の核となる資産家一族の過去についての描写があまりにもあっさりしているため、彼らの行為のおぞましさが軽くにしか伝わってこないように思われた

ヨハネの黙示録」では悪の象徴たるドラゴンは大天使ミカエルによって退治されるらしいが、ここでは主人公のミカエルがドラゴンの刺青を入れたリスベットと協力して難事件を解決するというところが面白い。キリスト教に多少なりとも知識があればもっと違う視点から観られるのかもしれない

オープニングクレジットで流れる「黒いドラゴン」のCGが秀逸だ

(2022年9月に他サイトへ投稿した記事を部分的に加筆修正し再掲)