一筆☆啓上

観た映画、読んだ小説の印象を綴ります

映画「ジャイアンツ」(1956)

年明け最初に鑑賞する映画として、普段はどうしてもためらいがちな長尺のものを観ようと思い、かなり前にビデオを借りた記憶が残るのみで、内容自体はすっかり忘れてしまった本作をチョイスした

アメリカ南部テキサスに広大な土地を所有する牧場主が東部出身の進取的女性と出会い結ばれ、三人の子供たちが巣立つに至る過程を綴った話は、エリザベス・テイラー扮する勝ち気なヒロインが保守と偏見に満ちた風潮に対し異を唱える部分も含め、NHKの朝ドラに共通するオーソドックスな展開で、そこに特別な目新しさは感じられない

その、良く言えば「鉄板」、悪く言えば「平凡」なストーリーにアクセントを付け、飽かすことなく観客を惹きつける要素となっているのが、牧場下働きの身から石油を掘り当て財を成すジェット・リンクというキャラと彼を演じたジェームズ・ディーンの存在である

50年代初め、従来の演技とは全く異なる革新的な方法により、文化芸術やショービジネスの枠を超え、一躍「時の人」となっていたマーロン・ブランドに心酔するジミーは、スタニスラフスキー式メソッドを用いたアクティングは勿論、私生活における服の着こなしや立ち居振る舞いまでブランドを模倣した。そんなジミーを見かねたブランドは「他人の真似ではいずれ行き詰る」旨を忠告したと自伝に書き記されている*1

ジミーの僅かなフィルモグラフィのなかで、大体において彼を象徴する作品として取り上げられるのは「エデンの東」「理由なき反抗」だろうが、両者に刻まれたジミーの発声の仕方や所作などは、捉え方次第では或る種ブランドの形態模写のように映らなくもない。しかしながら「ジャイアンツ」では、謂わば「マーロン・ブランドⓇ」の鎧を脱ぎ捨て、自らのオリジナリティを発揮したうえで、感情が複雑に入り交ざった役柄と向き合った点に注目したい。俳優ジェームズ・ディーンは「ジャイアンツ」で語られるべきなのだ

前の文章で「平凡な」物語と述べはしたが、この映画の製作が70年近く昔だったのを考えれば、父権的社会構造や人種差別に問題提起したドラマは時代を先取りしていたと評する方があるいは相応しいのかもしれない。撮影当時23歳だったリズの凛とした姿が殊更美しく、主人公のジョーダンやジェット・リンクでなくとも一目惚れしてしまいそうだ。ただし、彼女が配役されたレズリーの駆る愛馬と同様に乗りこなすのは相当に難しそうだが

【★★★★★★☆☆☆☆】

  • "Giant" 201分 (米)
  • 監督:ジョージ・スティーブンス
  • 脚本:フレッド・ギオル、アイバン・モファット
  • 撮影:ウィリアム・C・メラー
  • 出演:エリザベス・テイラー、ロック・ハドソン、ジェームズ・ディーン

(2024-1)

*1:「母が教えてくれた歌」マーロン・ブランド/ロバート・リンゼイ著 角川書店刊