「東の果て、夜へ」ビル・ビバリー 著
大谷翔平と山本由伸のドジャース移籍が決まった。彼らふたりがメジャーリーグの同じ球団でプレイするなんて、野球ファンにとっては夢みたいだ。しかも山本由伸の場合、医学やトレーニング方法が進歩したとは言え、野手と比較すれば故障するリスクの高い「投手」というポジションにもかかわらず、12年もの大型契約。それだけでワールドシリーズ制覇を目標に掲げるチームが寄せる期待度の大きさが窺える。来季のドジャース戦中継が楽しみで仕方ない
此度そんな流れで再読したのが、数年前に英国推理作家協会の新人賞と最優秀長編賞を同時に授与された本書。原題は、ズバリ「ドジャース」。ただし、野球に関連した話ではなく、黒人ストリートギャングを描いたクライム・ノヴェルである。ボスの依頼を受けて、上は20歳、下は13歳の黒人少年4人が、組織を裏切った「お抱え」判事を抹殺するべくLAを発って中西部ウィンスコンシン州へと向かう、その顛末が語られていく
黒人の少ない土地へ車を走らせるに当たり、世界というのは白人で成り立っていて、奴らは野球が大好き、ドジャースが大好きとの理由で、少年たちがまずスポーツ店で購入させられるのがドジャースのロゴ入りTシャツ類だ。また、「ドッジボール」語源の「ドッジ」には「かわす、回避する*1」の意味もあることから、このタイトルは先の見通せない危険な任務を負う羽目になった4人組をも指し示したダブルミーニングとなっている
ドラッグを売り捌く「家」界隈の外へ一歩も出た経験のなかった主人公・イーストが、道中で目にする様々な事象や仲間同士の諍いなどを通じて、少しずつ人間として成長する姿を追った物語は、サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」ケルアック「路上」のストリートギャング版といった雰囲気を感じさせ、単なるクライムものとは一線を画す文学的な香りが漂う
特に、イーストが彷徨いついたオハイオ州のペイントボール場(サバイバルゲームを行う施設)で職を得て、管理や雑用を任されるうちに白人オーナーとの間に絆が芽生える後半部の展開が上手い。著者は英文学の研究を専門とする方らしいが、なるほどストーリーの作り方をよく理解している。さらにその情景が今にも頭に浮かんできそうなエンディングのタッチも憎いばかりで、これが長編デビュー作とは凡そ信じがたいような仕上がりだ。ドジャースとLAの街をイメージさせる「青」を基調としたカヴァーデザインもGoodである
- 書名:「東の果て、夜へ」("Dodgers")
- 著者:ビル・ビバリー
- 訳者:熊谷千寿
- 出版社:早川書房
- 本の長さ:448頁
- 発売日:2017/09/07
*1:LAに移転する前のドジャースはNYのブルックリンに本拠を構えていた。当時のブルックリンには路面電車が多く、それをよける人々=ドジャースがチーム名の由来。ブルックリンを舞台にスパイク・リーが監督・脚本・主演を務めた映画「ドゥ・ザ・ライト・シング」では、主人公がドジャースのユニを着て登場する