一筆☆啓上

観た映画、読んだ小説の印象を綴ります

映画「波紋」(2023)

俳優・筒井真理子の存在は「淵に立つ」を劇場で鑑賞したときに初めて知った。あの作品で筒井が演じた人物は、或る出来事を境に、その前後でまるっきり別人になったかのように映り、そうした内面から滲み出す雰囲気のあまりに見事な変化は、ウェイト増加という謂わば外面的方法によってボクサーの凋落を体現したロバート・デ・ニーロのアプローチを超えたとすら思わせた

心のなかの細かな襞を的確に表し、感情を素早くシフトチェンジさせる筒井真理子の類まれな才能は本作でも如何なく発揮され、彼女が光石研や木野花、柄本明らユニークなバイプレーヤーたちと共演する様子は、芝居の観点ではとてもワクワクさせる。しかしながら作品自体は、肝となるストーリーに一貫性を欠き、結局何を描きたいのか分からぬまま最後は唐突とも言えるワンショット撮影で幕が閉じられてしまい、全体として見ると中途半端に終わった印象の方が強い

短い動画に慣れた観客の目を意識してなのか、最近の映画はやたらと話を詰め込む傾向にあるのではなかろうか。この「波紋」も例外ではなく、夫の失踪を発端として新興宗教へ救いの道を求めた主人公の物語に対して、幾つかの話が絡まる。タイトルの意はたったひとつの水滴が波紋を呼ぶことと考えられるが、結果的に枝葉を付けすぎたために幹がグラついた気がしてならない

前述のラストにしても、筒井の熱演ぶりは認めるにせよ、「これが趣味だったなんて一切聞いてないよ(頻繁に流れるスコアで前振りしていたのだろうが)」と半ばシラケ気味の感想しか持てなかったのが率直なところだ

いささか辛辣な評となったが、自身で脚本も手掛けた荻上直子の意欲は伝わってきた。ぜひ次回作に期待したい

【★★★★★☆☆☆☆☆】

  • "Ripples" 120分 (日)
  • 監督:荻上直子
  • 脚本:荻上直子
  • 撮影:山本英夫
  • 出演:筒井真理子、光石研、磯村勇斗、キムラ緑子、木野花、柄本明

(2024-6)