一度聞いたらついぞ忘れそうにない強烈なインパクトを持つ邦題は原作となった小説のタイトルがもとのようだ(原題は黙示録の一節「蒼ざめた馬を見よ」)。今回これを鑑賞しようと思い立ったのは他でもなく題名に惹かれたからである
観るに値するか、時間の浪費かは映画冒頭の数分間で感じ取れる。なかにはアタマだけで尻つぼみのものも存在はするが、大抵は掴みが〇なら仕舞いまで水準以上の出来なことが多い。その点で、本作における、内戦終結後に外国へ逃亡した反政府ゲリラ指導者のところへひとりの少年が訪ねてくる件の余計な無駄を削ぎ落した描写は、面白いと確信させるに十分なオープニングと言える
レジスタンスで無神論者のマヌエル、20年越しで彼を追い「マヌエルを捕まえさせてくれ」と神に祈る警察署長ヴィニョラス、マヌエルの母から遺言を授かった神父フランシスコ。神への関わり方がそれぞれ異なる三者の人生が交錯する展開がいい。「ローマの休日」や「アラバマ物語」など謂わばアメリカの良心的な部分を体現してきたグレゴリー・ペックがここではタフネスなスペイン人・マヌエル役でとても渋い雰囲気を醸し出す。若い女の身体に見惚れるような人間味もチャーミングだ
雨あられと弾が飛び交う銃撃シーンに慣れた現在の観客には、もしかするとハイライトシーンはあっさりしすぎに映るかもしれないが、マヌエルが長らく実戦から遠ざかっているのを念頭に置けば、そうした過剰さを排したタッチこそが、あの名作「ジャッカルの日」へと繋がるフレッド・ジンネマン流リアリズムという気がしてくる
陰影に富むモノクロ撮影が素晴らしく、知られざるフィルム・ノワールのマスターピースとして推したい一作
【★★★★★★★★☆☆】
- "Behold a Pale Horse" 118分 (米)
- 監督:フレッド・ジンネマン
- 脚本:J.P.ミラー
- 撮影:ジャン・バダル
- 出演:グレゴリー・ペック、アンソニー・クイン、オマー・シャリフ
(2024-5)