一筆☆啓上

観た映画、読んだ小説の印象を綴ります

映画「鞄を持った女」(1961)

ズルリーニの映画は昨年「激しい季節」を鑑賞しており、その際に本作もリストへ登録した。両者とも年上の未亡人に恋心を抱く青年を描いたものだが、同じくズルリーニ演出で以前より観たいと思いながら未だ願いが叶わずにいる「高校教師」の内容も、アラン・ドロン扮する教師が彼の生徒に惹かれる話と聞くので、所謂「愛があれば年の差なんて」系の主題によっぽど拘りを持つ監督なのかもしれない

道端に停めた車の助手席からヒロインが降り立ち、叢で用を足す場面で始まるオープニングがユニークだ。観る側からすると、このショットだけで彼女の人物像がおおよそは推測できる(そういう行為自体をあまり恥ずかしくないと思えるような生活環境で育ったのではないかなど)ので、これは或る意味とても計算されたディレクションと言えよう

全般に各シーンのカット割りを極力抑え、ふんだんに長回しを用いて丁寧に撮られた作品という印象を受けた。この方法は監督と俳優の双方に確かな技量が求められ、さらには絶対的な信頼関係がなければ成り立たないと考えられるが、それをラストに至るまで、ほぼ完璧に近いカタチで遂行した点において拍手を送りたい

俗な表現を使えば、思春期の若者が経験する「ひと夏の恋」を扱ったストーリーとなるが、そんな下世話な範疇では括れない崇高さを感じさせる佳作である。獏連姐さん的な部分とピュアな面とが同居する主人公アイーダ役をクラウディア・カルディナーレが好演。「ニュー・シネマ・パラダイス」で成人したトトを演じたジャック・ぺランがアイーダに恋するロレンツォ役で初々しい姿を見せる。果たして、あのエンディングでトトが目にするフィルムにはアイーダとロレンツォの抱擁は挿入されていただろうか

【★★★★★★★★☆☆】

  • "La ragazza con la valigia" 121分 (伊・仏合作)
  • 監督:ヴァレリオ・ズルリーニ
  • 脚本:レオ・ヴェンヴェヌーティ、ピエロ・デ・ベルナルディ 他
  • 撮影:ティノ・サントーニ
  • 出演:クラウディア・カルディナーレ、ジャック・ぺラン、ジャン・マリア・ヴォロンテ

(2024-3)